ヨハネス・ブラームス(1833~1897)の活躍した19世紀後半のドイツ・オーストリアの音楽の奔流は、ベートーヴェン、シューベルト以後メンデルスゾーンとシューマン主導のロマン主義を経て、リストとヴァーグナーによる新ドイツ派へと移行していました。管弦楽でも室内楽でも標題音楽と劇(的)音楽が標準化しつつあり、音楽内容は調性領域の拡大と崩壊(機能和声法の崩壊)を思わせる半音階多用傾向が急速に進んでいました。そうした時流に抵抗するかのように、伝統様式に根差した形式やジャンルで創作を続けたのがブラームスでした。
しかしそれを擬古典主義と呼んできた従来説は否定されなければなりません。近年の研究によって定説やイメージが大きく見直され、普遍的な魅力や精巧な作曲技法がいま改めて注目されています。
本講座では再評価や再解釈の進むブラームス音楽の本質を、その魅力とともに皆さんとじっくり深耕したいと思います。
講義に加え、作品や作曲家を演奏とともに紹介します。演奏をたくさん聴いて、感じて、味わうことで新たな気づきや感性の広がり、楽しみ方を広げましょう。皆さんの素直な感情の動きこそ豊かな鑑賞の一歩です。感想や疑問を大切に対話しながら進めます。
クラシック音楽の系譜の頂点といえるドイツ・ロマン派。ブラームスを深く知ることはその時代、それまでの系譜、他の作曲家の理解にもつながり広がります。ブラームスに限定せずクラシック音楽がお好きな方におすすめです。
1949年横浜生まれ。武蔵野音楽大学大学院音楽学専攻修了。研究領域は西洋音楽史と音楽美学。主として1700~1949年までのドイツ圏の作曲家と作品研究、J.S.バッハからR.シュトラウスまで。尚美学園短大助教授、沖縄県立藝術大学教授、静岡文化芸術大学教授、慶應義塾大学教授を歴任、この間東京藝術大学、国立音楽大学、東京音楽大学、桐朋学園大学、京都市立芸術大学、愛知県立芸術大学、成城学園大学、立教大学、横浜市立大学等の非常勤講師も勤める。論文にはシューベルトのピアノ・ソナタ論、ブルックナーの交響曲論、ベートーヴェンのさまざまな作品論等多数。
所属学会:日本音楽学会・国際音楽学会・18世紀学会・三田芸術学会・三田哲学会各会員。日本ベートーヴェンクライス代表。三田芸術学会会長。
開催形態 | ハイブリッド開催(対面(キャンパス)、オンライン) |
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日程 | 2025年 5/17、5/31、6/28、7/12、7/26、8/2(すべて土曜日) 欠席時は録画映像の視聴が可能です。 |
時間 | 9:30-12:30(3時間) |
定員 | 25名 |
会場 | 慶應丸の内シティキャンパス、オンライン(Zoom) |
参加費 | 110,000円(税込) 割引制度・キャンセル規定 |
お問い合わせ | 担当:湯川 03-5220-3111 個別相談 資料請求 |
第1回 5月17日(土)9:30-12:30(3時間)
“大器晩成の作曲家”という誤解を解くことから始めましょう。交響曲第1番の作曲が43歳であったことに起因しますが、それ以前の管弦楽曲にすでにブラームス特有の魅力があふれています。
音楽史における位置づけを確かめつつ、20代に作曲したピアノ協奏曲第1番をはじめ、オーケストラ・セレナーデ、ハンガリー舞曲集など管弦楽曲に若き日のブラームスの魅力を見つけましょう。
第2回 5月31日(土)9:30-12:30(3時間)
「室内楽の作曲家」の異名をとるブラームスは、多種多彩な室内楽作品を生み出しました。名ピアニストであった演奏家作曲家として最も自信をもって書いたピアノ三重奏・四重奏・五重奏から弦楽四重奏・五重奏、さらには他の作曲家があまり取り組むことのなかった弦楽六重奏曲まで、大家による室内楽の傑作をじっくり味わいます。
第3回 6月28日(土)9:30-12:30(3時間)
ブラームスは協奏曲を創作の初期・中期・後期に作曲しており、作品数は少ないものの彼の表現の変遷と独自性がよくわかります。また、晩年に作曲されたクラリネット三重奏曲と五重奏曲の背景に名手との出会いがありました。
作品から見えるブラームスの作曲の物語をたどります。
第4回 7月12日(土)9:30-12:30(3時間)
ブラームスのバラード、インテルメッツォ、変奏曲、幻想曲は、当時のピアノ音楽の本流(ショパン、シューマン、リスト等)とは大きく異なる独創の世界を築いています。そしてピアノを伴うヴァイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタ、クラリネット(orヴィオラ)ソナタもしかり。Op.1とOp.2、Op.5がピアノ・ソナタ第1~3番であるのは名ピアニストとしての自己表現でしょうか。
ピアノ作品の魅力と創作の原点に迫ります。
第5回 7月26日(土)9:30-12:30(3時間)
ブラームスが300曲もの歌曲を残したことをご存じでしょうか。最も尊敬し敬愛していたシューマンとも、最も強い共感を抱き理解を深めていたシューベルトとも、全く異なる声楽世界を築き上げ、ブラームスは19世紀ドイツ・ロマン主義リート史において重要な役割を担いました。そして荘厳な《ドイツ・レクイエム》へとつながります。
声楽作品を通しブラームス独特の表現のアプローチ、ロマン的側面や宗教観を探りましょう。
第6回 8月2日(土)9:30-12:30(3時間)
ベートーヴェンの後にどのような交響曲が可能なのか。これは後続のすべての作曲家が抱いた思いであり挑戦でした。
ブラームスの交響曲第1番が「第九」を継ぐ第10番であると言われますが、その作曲は「第九」52年後のこと。その半世紀の間に作曲されたリストによる交響詩や、同時代に活躍した“交響曲の大家”ブルックナーの作品、全4曲のブラームス作品、さらには20世紀に与えた影響まで含め、交響曲の系譜をじっくり再考したいと思います。